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速報
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ネパール 非常事態宣言! 小倉清子の緊急手記 第12回(05/03/25)
 2月1日、ギャネンドラ国王が非常事態宣言を発し、全権を掌握したネパール。国際電話、インターネットなどの通信は遮断され、カトマンズ在住の小倉清子との連絡も途絶えた。2月8日、ようやく通信が復活。
 通信の切断、治安部隊の出動、反国王派の監禁・拘束など、混迷続くネパールからの現地リポート。


3月24日(木曜日)
 昨夜、友人の記者からの電話で、今日午後3時から王室ネパール軍のスポークスマン、ディパク・グルン准将の記者会見があることを聞いた。私が知るかぎりでは、これまで軍は記者会見への外国人の参加を認めていなかったが、前回からインド人の記者も参加するようになったという。他の外国人は参加できるのかどうか、軍本部に確かめようと電話をすると、グルン准将自身が電話をとった。「ネパール人のスタッフがいるならば、ネパール人を寄こすように」言われるが、もちろん、そんなスタッフなどいないので、自分で行きたい旨を告げると、「インド人しか参加は認めていないが」と言われた。それでも、「バブラム・バッタライの処分のことがどうしても聞きたい」というと、来てもよいと言う。どうも、“招かれざる客”のようで、最初はためらわれたが、この記者会見には出ただけの甲斐があった。会見の最後で、グルン准将は思わぬ情報を披露してくれたのである。

 記者会見はカトマンズのサヒド・ゲート(バドラカリの西)にある軍本部で開かれた。まず、王室ネパール軍が率いる治安部隊の成果に関するさまざまなデータを発表する。昨年8月27日にマオイストが一方的に停戦を破棄してからこれまでに、治安部隊の掃討作戦により“テロリスト(マオイスト)”3317人が死亡。これに加えて、さらに560人が死亡したと“推測”していると言う。一方、同じ時期の軍側の死者は404人。この数字をこのまま信じるとすると、マオイスト側の死者は軍側の8倍ということになる。もちろん、軍側の死者数には警官・武装警察隊警官の死者数が入っていない。しかし、それにしてもこの数字のアンバランスをどうとるべきなのか。

 さらに、ここ半年のあいだに治安部隊が逮捕した人の数を見ると、ファグン月(2月12日〜3月13日)が122人で、他の月と比べて圧倒的に多い。「2月1日政変」後、軍による逮捕者が増えたということだ。治安部隊の掃討作戦により死亡した人の数も、ファグン月が最大で202人である。非常事態宣言の影響がはっきりと見てとれる。

 王室ネパール軍が関連して行方不明になったとして軍側に提出されたケースの数は、国家人権委員会を通じて959件、ICRC(赤十字国際委員会)を通じて758件、国連人権委員会の合同アピールを通じて549件など。軍が違法に(非武装マオイストや一般人を)殺害したケースの数は、国家人権委員会を通じて22件、ICRCを通じて62件。このうち、ほとんどのケースが“調査中”である。

 データのブリーフィングのあと、軍側に降伏した“ビギャン”ことナバラジ・タパというマオイストのビデオ・インタビューが公開された。グルン准将はこのマオイストは「郡レベルのリーダー」であると言う。音声が非常に聞き取りにくいが、「プラチャンダ派とバブラム派に分かれて党内分裂が進んでいる」ことを盛んに説明しているのがわかる。「大半の党員はバブラム派だ」というようなことも言っている。「インタビューと言うよりも演説のようだ」と隣りの記者が言う。どうやら、軍側が14日に国営通信社のRSSを通じて流した「バブラム・バッタライとヒシラ・ヤミが党を除籍された」というニュースの情報源の一人がこの“ビギャン”らしい。

 ビデオのあとの質疑応答で、この“ビギャン”の話すことにどれだけ信頼性があるか聞く。「郡レベルのリーダー」は党内でそれほど上位の地位とはいえない。「ビギャンだけでなく、複数の情報源からの情報を総合してバブラム・バッタライらが除籍されたと判断した」とグルン准将は答えた。今日の英字紙「The Himarayan Times」が掲載した記事に関する質問も出た。インドが軍事援助を停止したために、王室ネパール軍がインド製INSASライフルの弾薬を製造することになったという記事だ。これについては、「王室ネパール軍はこれまでもINSASライフルなどの小銃の弾薬は国内で製造してきた。インドが軍事援助を止めても、弾薬の供給に問題はない」と言う。

 ひとおりの質疑応答が終わったあと、グルン准将は「たった今入ったばかりの情報」として、突然、重要な情報を披露しだした。最初の情報は、「バブラム・バッタライが党内で処分されたあと、東ネパールのタプレジュンやパンチタルで、バブラム派のマオイストがダージリンやシッキムに逃げ出した」というものだった。こうした話は、どうも軍側のプロパガンダのようで胡散臭い。しかし、次に話し出した情報は違った。まず、「3月20日にインドのニューデリー市内ナレナで、マオイストの西北地域の会議が開かれた。この会議で配布された“サーキュラー(びら)”によると、マオイストの政治局員バブラム・バッタライこと“ラル・ドジ”が党内すべての地位を剥奪されて一般党員に降格された」と言う。さらに、バッタライ政治局員の妻でやはり政治局メンバーだった“パルバティ”ことヒシラ・ヤミは「党の分裂を図った」かどで党からの除籍処分にあった。そして、もう1人の政治局員ディナ・ナス・シャルマは「党則に反して記事を掲載した」かどで“辞任”を要求されたというのである。また、昨年6月にインドのパトナでマオイストの政治局員1人と中央委員数人、さらにカトマンズ盆地の特別部隊を率いるリーダー数人を含む11人が一斉に逮捕されたが、この件に党中央委員の“スニル”が関わっていた疑いが生じ、“スニル”も党からの辞任を要求されたという。

 Dr.バブラム・バッタライは、党首プラチャンダに次いで、昨年2月にインドのシリグリで逮捕された最長老リーダーの“キラン”ことモハン・バイデッャヤと並んで党内ナンバー2の地位にいた。バッタライ氏は、2001年9月にロルパ郡で開かれた総会で樹立されたマオイストの中央政府、統一革命人民評議会の議長でもあった。さらに、中部地域の党責任者でもあったが、これらの地位はすべて、デブ・グルン政治局員に引き継がれるという。デブ・グルン政治局員は、2003年の第二回対話のときにバッタライ氏率いるマオイスト側対話団のメンバーでもあった。モンゴル系のグルン族に属し、マオイスト内では“民族系リーダー”としても知られるが、インドの名門ネルー大学の修士・博士課程(修士は建築学、博士は開発経済学)をトップの成績で修了した“秀才”で知られるバッタライ氏と比べると、やはり個性が見劣りする。バッタライ氏の降格はマオイストにとって大変な痛手となるはずである。

 記者会見を終えて家に戻り、E−メールを開くと、なんと当の2人、つまりDr.バブラム・バッタライとその夫人ヒシラ・ヤミ氏の名前で声明が届いていた。これもまた、示唆にとんだ非常に興味深い内容のものだった。まず、「われわれの党内で起こっている事に関して、さまざまなメディアを通じて間違った事が伝えられているために、それを明らかにするためにこの声明を出した」とし、「われわれのような革命的政党のなかで反対派が生じることは、決して新しいことでも驚くべきことでもない」と、マオイストの党内で意見の相違が生じていることを示唆した。そして、「(治安部隊は)私たちが人民解放軍に捕まったという表現を使って誤った報道をすることにより、人民解放軍とわれわれの関係を壊そうと試みている」と非難した。ところが、このあとで、「ネパールの歴史上初めて、抑圧された人民のなかから生まれた人民解放に囲まれて保護され、落胆しているというよりも、むしろ楽しんでいる」というではないか。これは、どう考えても、彼らが人民解放軍の拘束下にあることを示している。

 不思議なのは、党側が2人にこの声明を出すことを許したことである。あるいは、「書かされた」のであろうか。微妙な表現を使って、明確に彼らが処分を受けたことを明らかにはしていないが、党内に意見の相違があること、彼らが拘束下にあることはすぐにわかる。この声明には2人の署名もない。マオイストは声明を送ってくる場合、必ず送り人の名前とともに党内の地位を記すが、それもない。ここからわかるのは、やはり、2人が重大な処分を受けたということだ。しかし、声明のなかで、「民主的共和制を実現するために」あらゆる勢力に共闘を呼びかけていることから、党を離脱したのでないことが予測できる。

 しかし、これはマオイストにとって大変な出来事である。これがきっかけとなり、党の弱体化が進む可能性も否定できない。先にも書いたが、バッタライ氏らを処分した理由が、彼のプラチャンダ党首への批判と党内民主化を試みたことにあったとしたら、これが党内での不満分子を増やし、本当に党内分裂に進む可能性もある。そして、この情報が示すのは、軍側がマオイストの党内部に、ある程度の情報網をはることに成功しているということだ。しばらく前からマオイストは党内からの情報漏えいが原因で、リーダーが殺害されたり、逮捕されたり、頻繁に被害にあっている。党内分裂が進めば、こうした情報漏えいはさらに広がるかもしれない。


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