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速報
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ネパール 非常事態宣言! 小倉清子の緊急手記 第25回(05/07/01)
 2月1日、ギャネンドラ国王が非常事態宣言を発し、全権を掌握したネパール。国際電話、インターネットなどの通信は遮断され、カトマンズ在住の小倉清子との連絡も途絶えた。2月8日、ようやく通信が復活。
 通信の切断、治安部隊の出動、反国王派の監禁・拘束など、混迷続くネパールからの現地リポート。


6月29日(水曜日)

 昨日、今日と朝から快晴の空。しばらく雨が続いたあとの晴れ間は実に爽やかだ。自宅の屋上から、あざやかな緑をバックに白いスワヤンブー寺院を望むことができる。雨季はまだ本格化していないが、カトマンズの深刻な水不足は、このところの雨で少しは潤っているのだろうか。

 中央政界は相変わらず毎日動いている。昨日は、地元のタナフンで2月1日の政変直後に逮捕されて以来、拘留されていたネパール会議派のラムチャンドラ・ポウデル元国会議長・元副首相が最高裁の指示により5ヶ月ぶりに釈放された。ポウデルは拘留されているタナフンから、「カンティプル」紙に何度か記事を投稿し、そのなかで王制を厳しく非難していた。他の政治家が釈放されたあともポウデルが拘留されていた理由は、彼が新憲法のための制憲議会選挙の実施を主張してきたからであることは明らかだ。彼の釈放により、今も拘留されている政党関係者はネパール会議派のナラハリ・アチャルヤ、同党の学生リーダー、バス・コイララ、人権活動家のクリシュナ・パハリらだけとなった。アチャルヤが拘留されている理由も、彼の王制に対する批判的な態度と制憲議会選挙の実施を支持してきた姿勢にある。アチャルヤは拘留されている軍施設のなかから、8月に開かれる同党総会でネパール会議派が「王制支持政党としてでなく、完全な民主主義政党として」の方針を打ち出すべきだという書簡を同党中央委員会に送ってきたと今日の「カンティプル」紙は伝えている。

 ネパールを訪問していた米国のドナルド・キャンプ国務省副長官補佐官(南アジア担当)が昨日、記者会見を開き、「世界も米国もネパールが1990年以前の状況(絶対王政のパンチャヤト制度)に戻ることを受け入れることはできない」とする米政府の見解を明らかにした。さらに、「治安を民主主義に優先することはできない」「非常事態宣言は解除されても、政治活動や市民の自由は制限されている」「FMラジオに対する制限(ニュース報道の禁止)は誤まっている」などと、国王率いる現政府を批判する内容の意見を述べた。今回のキャンプ補佐官のネパール訪問で、2月1日以降凍結されている米政府の武器援助が再開されるのではないかと注目されていたが、昨日の発言内容を見る限りでは、当分、武器援助の再開はなさそうだ。M−16の供与に関しては、「(政変以降)輸送が遅れているが、トレーニングなどを通じて、ネパール軍へのサポートは継続する」と発言した。

 ギャネンドラ国王率いる政府は、このところ、あちこちでほころびが目立ち始めた。一番お粗末なのが筆頭閣僚のDr.トゥルシ・ギリで、国営銀行の「悪質債務不履行者リスト」に彼とその妻、さらに他の親類の名前が載っていることが明らかにになったあと、彼をめぐる“不正”が次々と暴かれている。まず、政変直前から筆頭閣僚に任命されるまでに偽名を使って、カトマンズ市内のホテル・ヤク&イェティに宿泊費無料で宿泊、支払わなければならない約120万ルピーに及ぶ飲食費・電話代をいまだに未払いでいることが明らかになった。さらに、彼の会社が税金を払っていないこと、閣僚になった人物は個人資産を公表しなければならないという規則があるにもかかわらず、彼だけが今にいたるも公表していないことがわかった。さらに、現政府は、ギリやキルティ・ニディ・ビスタ副首相に家具の購入費用や家の修理費として、規定外の手当てを出していたことも明らかになっている。こうしたスキャンダルの暴露はすべて、日刊紙「カンティプル」が行ったものだが、この報道によりそれでなくとも、発足当初から問題を抱えていた現政権の権威は地に落ちたといっていい。その結果が、これまた問題の汚職統制王室委員会に真っ先に現われた。国王任命により「政党政治家と官僚の汚職を一掃する」目的で鳴り物入りで現われた同委員会だが、メンバーのほとんどが法律にも無知で、まともな聴取をする技能さえもたないと、非難の的になっていた。政党側はこの王室委員会が「政党と政治家のイメージを潰す目的で違法に」発足したものと、委員会の解散を要求してきた。この王室委員会が最初のケースとして、デウバ前政府が昨年のダサイン祭のときに、首相救済基金から380万ルピーを不正に使用したとして、デウバ前首相とカドカ内相ら6人の閣僚を調査していたのだが、27日、全員が「有罪だが罰せず」という、何とも不透明な判決を下したのだ。前日、デウバ前首相の弁護人は、現政府が筆頭閣僚と副首相に対して、閣議決定により不正に公金の使用を認めたとして、彼らも王室委員会で裁きを受けるべきだと主張した。この弁護人の理屈はまさにその通りで、王室委員会の判決はどう見ても、現政府がしている不正を隠すための目くらましとしかとれない。同委員会のバクタ・バハドルゥ・コイララ会長は先週末、国王に召還されてお叱りを受けたとも聞く。委員会では、昨日から、デウバ前首相のもう一つのケースであるメラムチ飲料水プロジェクトの建設事業に関する汚職疑惑の聴取を始めたが、こちらもまだ証拠が見つかっていないと聞く。このケースもきちんとした判決が出せなかった場合、王室委員会は解散になるという噂もある。

 政府もお粗末だが、民主化運動を続ける二大主要政党のネパール会議派とネパール共産党統一マルキスト・レーニニスト(UML)も同じくらいお粗末だ。ここまできても、「民主化」を求める政党が党内民主化をなかなか実現できずにいる。ネパール会議派は2月1日政変で延期されていた党総会を8月末にカトマンズで開くことになった。ところが、新党首を決めることになる総会メンバーと、各郡の党会長を決めるプロセスがまったく非民主的だと、党内の若手リーダーなどから批判の声が上がっている。各郡の党会長は郡ごとに党メンバーが郡総会を開いて決める党則だが、大勢の党員がマオイストのために地元にいけない状況下で、いくつかの郡では反主流派を無視るす形で勝手に会長を決めたという批判が出ている。UMLはUMLで、政変直後に二つの委員会を発足させて、1990年民主化以降の同党の活動を見直す報告書を作成し、それに基づいて、汚職リーダーや「これまでの誤りに責任のあるリーダー」を処分する動きがあったにもかかわらず、今だにこれが実現できていない。一時期はデウバ前政府に入閣した全閣僚やマダフ・クマール・ネパール総書記まで処分の対象にする声まであがっていたが、彼らが釈放されて自由の身になったとたん、そうした声はかき消されてしまったようだ。二大政党がこんなお粗末な状況では、民主化運動に対する国民の支持をどうやって得られるというのか。

 マオイストはマオイストで独自の動きを進めている。彼らの本拠地である西ネパールのロルパ、ルクム、サリヤン、ピュータン、ダン、バグルン、グルミ、アルガカンチ、ミャグディなどの「マガラト自治区」で、6月18日と23日の二日間、村人民政府のメンバーを選ぶ一斉選挙を開催したのだ。実は、この選挙の1週間ほど前に、カトマンズ在住のジャーナリスト何人かが「選挙の視察」に招待された。何人かが取材に行ったようだが、そのレポートを読むと、多くの村ではマオイストしか立候補せず、候補者1人だけで自動的に当選したようだ。マオイストは彼らの人民政府に「登録した」政党だけに立候補を許可するという規則を作ったらしいが、実際に登録した政党はマオイスト以外に皆無だったという。4月にピュータンに取材に行った際に聞いた話しでは、マオイストはこのあと郡レベルの選挙、そして自治区の選挙を行い、マガラト自治区を初めての「人民共和国政府」として宣言する予定でいる。

 国王との話しあいを求めるリーダーがまだいるなかで、公の場で、はっきりと「国王のいない政治システム」つまり共和制を求める発言をする政党リーダーが増えてきた。とくに、このところUMLのネパール総書記が「王制と民主主義はネパールでは両立しない」という発言を繰り返し行っている。昨日は、同党のバムデブ・ガウタム元副首相も同様の発言をした。元々、NCやUMLの学生活動家や青年リーダーのほとんどはすでに「共和制」を求める意見だったが、国王の強硬な態度が長期化するとともに、共和制の声がリーダー層にまで広まりつつある。一方で国王のほうも、その手綱を緩める様子はない。先日は、やはり「カンティプル」紙が、政府が「国立大学だけでなく、すべての私立大学の学長を国王とする」という新法の公布を準備しているという記事をスクープした。「大学の政治化を防ぐため」という理由を政府があげているが、これまで国王が学長を務めてきたトリブバン国立大学は今でも最も学生の政治活動が活発な教育機関だ。したがって、国王が私立大学の学長になったからといって政治化が防げるものではない。政府の真の目的は大学の自由化を阻止し、統制化を進めるためのものだという教育関係者からの声が上がっている。

 「とにかく平和であれば、どんな政治システムであろうとかまわない」というカトマンズ市民の声をよく耳にする。それが正直な本音であることもよくわかる。しかし、今のネパールで「より平和でない」のはカトマンズ盆地の外である。地方と比べたら、カトマンズ盆地は政変以前でさえ「平和だった」といえる。先日、知識人の会合で、ある人が「人間社会に恒久な平和などありえないのだ」と言っていた。「長期的な平和」というのが真実であり、それを実現するのは、1人の特定の人間が国家を操る独裁政治などではなく、きちんとした政治システムでしかありえない。独裁体制のなかで、ごく一部の地域で見られる平和など、単なる「まやかしの平和」にすぎない。この国は現在、歴史上最大の転換点にいる。これを機会に、恒久に限りなく近い長期的平和を実現するためにも、国民はどんな政治システムが必要なのか考えるべきだ。それを考えることなしに、ただただ「平和」を求めることは何の解決にもなりえない。

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