2月1日、ギャネンドラ国王が非常事態宣言を発し、全権を掌握したネパール。国際電話、インターネットなどの通信は遮断され、カトマンズ在住の小倉清子との連絡も途絶えた。2月8日、ようやく通信が復活。
通信の切断、治安部隊の出動、反国王派の監禁・拘束など、混迷続くネパールからの現地リポート。
7月12日(火曜日)
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カトマンズ地方裁判所前で釈放されたばかりの人権活動家クリシュナ・パハリ |
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7月4日昼近く、ネパール会議派の学生組織NSUの幹事長バス・コイララから電話があった。拘留されているラリトプル郡警察署内からの電話だった。「現在、釈放の手続きをしている」という知らせだ。コイララは、2月1日政変後に逮捕され拘留されたあと、他の活動家が釈放されたあとも拘留されつづけていた最後の3人のなかの1人だ。他の2人、ネパール会議派の中央委員ナラハリ・アチャルヤと著名な人権活動家クリシュナ・パハリも釈放されるようだ。「恐れ知らず」のクリシュナ・パハリが前日の3日に「4日から無期限のハンストを始める」ことを宣言したことによる釈放決定であることは明らかだ。3人の釈放手続きがされるカトマンズ郡地方裁判所に行くと、ちょうどクリシュナ・パハリが釈放されて裁判所から出てきたところだった。トレードマークの黄色いクルタ・スルワルを着たパハリを大勢のメディア関係者が取り巻いていた。まもなくコイララも現われた。最後に武装警察隊本部に留置されていたナラハリ・アチャルヤが到着した。アチャルヤは他の2人のように裁判所前でのインタビューには答えず、「取材は自宅で」とだけ言って帰っていった。
国王の絶対王政に反対し、民主主義支持のスタンスを明確に打ち出した報道をしている民間最大のメディア、カンティプル・パブリケーション襲撃の計画が立てられていたことを「カンティプル」紙自身が明らかにした。同紙の記事のなかでは情報源を明らかにしていないが、襲撃の計画に加わっていた人物自身が同紙に情報をリークしたと聞いた。襲撃を試みたのは現在の体制側に属する機関である。「カンティプル」紙と英字紙の「The Kathamandu Post」、週刊誌「Nepal」、「カンティプル・テレビ」、「カンティプルFM」を所有する「カンティプル・パブリケーション」は昨年9月1日に、イラクでネパール人労働者が殺害されたあとにカトマンズ起こった大暴動の際にも襲撃を受けている。このときにはヒンドゥー原理主義者のシバ・セナ・ネパール、パシュパティ・セナが襲撃に関わっていたことをみずから明らかにしている。国王派からなる絶対王政を求める極右のグループだ。ネパールで最大の民主的メディアを襲撃して、メディア界全般に脅しをかける意図なのだろうが、そんなことで脅しが効くと思ったら、とんでもない愚かな人間の考えることだ。今のネパールを操る勢力の背後にいるグループが、いかに愚かであるかを証明する出来事だ。
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7月10日にバサンタプルで開かれた7政党の集会で演説をするネパール会議派のラム・チャンドラ・ポウデル元国会議長 |
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このところスキャンダルでメディアをにぎわしていた筆頭閣僚のDr.トゥルシ・ギリが6日、公費を不正に使って住んでいると言われているバルワタルの公邸にネパール人のジャーナリストを呼んで“懇親会”を開いた。「会話を記事にするな」という条件で呼ばれたせいか、その内容については、各紙が1日遅れで掲載した。一方、「カンティプル」のディネシュ・ワグレ記者が運営する「United We Blog!」には翌日、会に参加した2人の記者が書いていた。“懇親会”の席で、ギリはまず、「Unietd We Blog!」にワグレ記者が書いたギリの批判記事の全文を読み上げて、いちいち誤りを指摘したと聞く。この会をアレンジしたのは国民民主党のディーパク・ボハラらしいが、会を開いた意図はこのところ地に落ちた感のあるギリのイメージを回復することが目的なのだろうと予測がつく。この会でギリは「ネパールでは王制と民主主義の2本の柱は両立しない。どちらか1本の柱を強化すべきだ」と発言した。政党政治に反対するギリのこの発言の意図は、もちろん絶対王政を強化すべきと伝えることにある。この発言が各紙で伝えられると、政党リーダーらが一斉に強い反発の声を上げた。「王制か民主主義のどちらかを選べというのであれば、当然、民主主義をとる。わが党はもはや王制支持ではない。複数政党制民主主義のみを支持する」とネパール共産党統一マルキスト・レーニニストのネパール総書記がやり返したのをはじめ、ネパール会議派のコイララ党首も「8月末に開かれる党総会で王制支持か共和制支持かの党決定をする」と発言。さらに、10日にカトマンズのバサンタプルで開かれた7政党の集会でも、演説したリーダー全員がこのギリ発言に触れて、「王制よりも民主主義をとる」ことを明らかにした。この集会では、先日、タナフンで釈放されたばかりのネパール会議派のリーダー、ラム・チャンドラ・ポウデル元国会議長・元副首相が最後に演説をした。ポウデルが「ギャネンドラ国王が本当に国のことを思うのであれば、次の3つのことを実現していたはずだ。それは、故ビレンドラ国王一家の資産を自分のものとせずに、国の資産としたはずだ。自分が運営するビジネスを手放したはずだ。(王宮事件で王族の数が減ったにもかかわらず)王室関連予算を大幅に増やさずに、減らしたはずだ」と話すと、大きな拍手が沸いた。
ギリ発言の前に、王室評議員メンバーのサチト・シャムシェル・ラナ元軍参謀長が「(民主化運動をする)7政党をanti-nationalists(反国家主義者)と呼ぶべきだ」と発言して、これまたメディアの注目を集めた。ラナは国王側近のなかでも、「政党活動を禁止すべきだ」という意見をもつ超ハードライナーとして知られる。さらに、タンカ・ダカル情報通信相も「政党がマオイストと接近したら、政党もテロリストとみなし処分の対象とする」と話し、政党に対する脅しともとれる発言をした。国王派と民主派の両極化がますます進んでいる原因は、こうした国王派の強硬発言によるところが大きい。一方で、一般国民はともかく、民主化勢力の7政党は確実に「共和制支持」に向かっている。国王率いる政府に、マオイストとの対話を始める意図がまったく見られないことから、ネパール会議派のコイララ党首が「われわれがマオイストと対話をする。マオイストと接触をしたせいで逮捕されようと、何をされようとかまわない」と発言した。この発言に応える形で、11日、マオイストのプラチャンダ党首が声明を出して、7政党に対して「政党とマオイストのあいだの対話のためのチームを結成するよう」呼びかけた。この呼びかけに対する政党側の反応は、「マオイストが武装活動を止めないかぎり信用はできない。しかし、対話はすべき」というものだ。7政党はすでに、国会の復活から全党内閣の発足、そしてマオイストの主要要求でもある新憲法を制定するための制憲議会選挙を最終目的にしたロードマップを決定している。制憲議会選挙の要求がマオイストと7政党で一致したことから、両者が歩み寄る可能性が一気に高くなった。