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速報
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ネパール 非常事態宣言! 小倉清子の緊急手記 第32回(05/08/18)

 2月1日、ギャネンドラ国王が非常事態宣言を発し、全権を掌握したネパール。国際電話、インターネットなどの通信は遮断され、カトマンズ在住の小倉清子との連絡も途絶えた。2月8日、ようやく通信が復活。
 通信の切断、治安部隊の出動、反国王派の監禁・拘束など、混迷続くネパールからの現地リポート。



8月15日(月曜日)
「ヒトラーとギャネンドラは同じ」と書かれたボードを持つ参加者。
 今日は日本の終戦記念日、そして、インドの独立記念日でもある。以前から約束していた通り、インド人の友人と今カトマンズで大人気上映中のヒンドゥー映画『Mangal Pandey−The Rising』を見に行った。王宮前にある映画館は満員で、独立記念日で休日のためかインド人の家族連れが多い。この映画は、イギリスの東インド会社がインドを支配していた時代の1857年に始まった「セポイの反乱」を題材にしたもので、その後、インドが独立するまでの約100年にわたって続く反乱が起こるきっかけを作ったとされているベンガル人傭兵のマンガル・パンデが主人公だ。当時、新式銃として東インド会社の軍が導入したエンフィールド銃の弾薬の装填に使われた薬包に、ヒンドゥー教徒が神と崇めて食べるのを禁じている牛と、ムスリムが穢れた動物として食べるのを禁じている豚の脂が使われているという噂から(装填の際に薬包を噛み切らねばならないため、傭兵のほとんどを占めるヒンドゥー教徒とイスラム教徒はこれを使うことを拒否した)、傭兵が暴動を起こし、それがやがて全国に広がる反乱となるプロセスが実に面白く描かれている。これに、マンガル・パンデと英国人士官の男の友情という軸が加わってストーリーが展開する。もちろん、2人の男のそれぞれの恋愛もエッセンスとして加わるのだが、主軸はあくまでも男の友情のほうである。映画の製作者でもあるアーミル・カーンがマンガル・パンデの役を巧みに演じている。小柄でがっしりとした体つき、太い口ひげを生やした正統派二枚目の顔つきが、正義感あふれる主人公の役柄にぴったりだ。インド映画史上最高の制作費を使って製作したといわれるだけの内容である。壮大なスペクタクル場面もあって、とにかく面白い。

 この映画を見ているうちに感じた。これは今のネパールでは極めて“危険な”映画ではないか。この映画は、軍を使って貧しいインドの人々を支配する東インド会社という“絶対勢力”に反乱を起こす人々のストーリーだ。しかも、貧しい人々を抑圧するのは、同じ「ヒンドゥスターニー(インド人)」の傭兵たちである。マンガル・パンデがラニー・ムケルジ演じる遊女たちに対して「(英国人士官に)身体を売るなんて」とさげすむと。ラニー・ムケルジは「あなたたち(傭兵)は、(東インド会社に)魂を売ったじゃないの」と言い返す。そして、反乱を起こしたあとで、マンガル・パンデはかつて忠誠を尽くした英国人士官に対して、牛の脂をなめて不可触民になった事に触れて「今になってわかった。(東インド会社支配下にあっては)インド国民全員が不可触民なのだ」と、外国人による絶対的支配下で生きることの屈辱を口にする。結局、イギリス人に魂を売った傭兵たちが独立のために立ち上がり、それが民衆にまで広がるわけだが、映画のなかで何度も民衆が叫ぶ「ジャガオウン!ジャガオウン!(立ち上がれ!)」というスローガンが、今のネパールの国民に呼びかけているような気がして仕方がなかった。この映画は政党によるデモよりも何よりも刺激的だ。

8月16日(火曜日)
 今日は午後3時半から、市民グループ「平和と民主主義のための運動」が組織する「座り込み集会」が旧王宮広場のバサンタプルで開かれることになっている。このグループによる3回目のプログラムである。ポタリサラクから歩いて会場に向かうと、ラトナパークでこのグループの主催者の1人である医師に会った。2日前からポカラで開かれている、ネパール会議派の学生組織NSUの総会のことが話題になる。7月24日に逮捕され、動乱扇動罪で起訴されていたカリスマ的リーダーのガガン・タパが14日の夕方に釈放され、昨日からこの総会に参加している。「共和制支持」に関して総会で話し合うべき、新会長は選挙を通じて民主的に選ぶべきというガガンらのグループと、「王制を保持すべき」、会長らを話し合いで決めるべきという、党幹部のバックアップを受けている主流派が真っ二つに分裂し、昨日の段階で総会の進行が実質的に止まっている。「党側はNSUの総会に干渉するな」というネパール会議派のコイララ党首自身の指示にもかかわらず、コイララ党首自身が介入していることが明らかだ。「民主主義」を求める政党がその学生組織に介入して、実に非民主的な方法で総会を進めているわけだ。こんなことだから、政党は国民の支持を得られない。最大政党の一つネパール会議派は一体いつになったら目覚めるのだろうか。党主流派幹部もNSU主流派も烏合の衆にしか見えない。

アスミナ・ランジトさん演出のパフォーマンス
 会場のバサンタプルには広場を埋め尽くす人が集まった。周囲の寺院の高みに、大きく引き伸ばした風刺画が貼られている。“王制”と書かれた大きな岩が崖から落ちそうになっているものなど、絶対王政を批判する内容の風刺画がほとんどだ。北側の一段高くなっているところをステージに、その前に主催者のディベンドラ・ラジ・パンデ氏ら大勢の人が座り込んでいる。さらに、それを取り巻いた立ち見の人たち。周囲の寺院の階段にまで人が一杯だ。今日の司会は、人気コラムニスト・作家のカゲンドラ・サングラウラ氏。彼が話すときには、ほとんど無駄な言葉を使わずに、考え抜かれた表現で話すせいか、言葉が直球で伝わってくる。これほど効果的な司会もいまい。プログラムの最初は、女性がタブラーを演奏するあいだ、女性たちが36のランタン(カンテラ)を手に5分間沈黙して立つというもの。このあと、女性ビジュアル・アーティストのアスミナ・ランジトさんが演出したパフォーマンスが続く。ランジトさんを含む詩人や芸術家などの女性たちは喪服を示す広いクルタ・スルワルを着ている。彼女らはステージに上がり、それぞれの口を白い布で縛る。下のステージでは、遺体を示すのだろう、床に横になった人たちの身体の輪郭を別の人がチョークで描く。この間、大きな声で泣き声が流れつづける。パフォーマンスが終わったあと、ランジトさんにパフォーマンスで伝えたかったことを聞くと、「今の平和はブラマ(幻想)にすぎず、本当の平和ではないということを伝えたかった」と答えた。「無理やり、口を縛ってつぐませて、本当の平和は実現できない」と言う。市民グループが要求している「ロクタントラ(民主主義)」について彼女自身の考えを聞くと、「国王の居場所はない」と答えた。

 サングラウラ氏は司会者としての言葉のなかで、「われわれはロクタントリク・ガナタントラ(民主的共和制)を求める」と、彼ら市民グループのスタンスを明確に表明した。ジャナジャティ(少数民族)代表として演説したケサブマン・サキャ氏は「われわれは国王に最後のチャンスを与える。それは(新憲法を制定するための)制憲議会を開催することだ」と主張。リムブー族の詩人バイラビ・カイラ氏は「ギャネンドラ国王は21世紀の国王は“見ない、聞こえない”国王ではだめだ、と言うが、国王がもし、街頭を歩いて市民の声を聞いていたなら、マオイストに対話を呼びかけただろう。国王が今歩いている道は、だれかが劇を演じている道で、本当の市民の声は聞こえない」と話した。

 医学者で文学者のマヘシュ・マスキー氏が、1990年の民主化運動直後に詠んだ詩の朗読を始めようとしているときだった。警官隊が郡警察署のほうから会場に歩いて入ってきて、「No Monarchy(王制はいらない)!Yes Democracy(民主主義がほしい)」「ヒトラーとギャネンドラはまったく同じ」などと書いたプラカードをもっている人たちから、プラカードを取り上げようとした。すると、それを阻止しようと座り込みをしていた人たちが立ち上がり、警官隊に「帰れ」と叫びだした。参加者の群れは警官を押し戻し、主催者の何人かが警官隊に「会場を離れるよう」要請した。一時期は暴動になるかという雰囲気さえあったものの、ジャーナリストのシャム・シュレスタやカナク・マニ・デチットらがあいだに入って、警官隊は後戻りし、場は治まった。思わず、昨日観た映画の民衆の反乱シーンが頭に浮かんだ。このあと、警官隊は会場の端に待機するような形でいつづけたが、プログラムは詩の朗読、左翼系歌手ラメシュの歌と続いた。そして、最後にサングラウラ氏が何度も自身のコラムのなかでも書いてきた、現在の民主化運動の立役者である2人のなかの1人、ネパール弁護士協会のシャンブー・タパ会長の演説となった。大柄なタパ会長が大きな声で話す言葉にも説得力がある。タパ会長は、集会を見守る警官隊を指して、「治安部隊は国王率いる政府の指示に従うべきではない」と話す。そして、「もう対話は遅い。権力を手放せと言うべきだ」と、政党リーダーがここにきても王室と妥協しようと試みていることを批判。「昨日のリーダーは引退して、新しいリーダーに場所をゆずりなさい。あなたたちのリーダーシップでは国民はついてこない」と、政党リーダーたちに呼びかけた。サングラウラ氏が、これで今日のプログラムが終わったことを告げると、もう1人の“立役者”である人権活動家のクリシュナ・パハリ氏の登場を要求する声が会場から上がった。トレードマークである黄色い服を着たパハリ氏は、声に応えてステージにあがり短い演説をしてかけおりた。この後、前回のナヤバネスワルでの集会と同様に、ラメシュらが映画「バリダーン」のなかの歌「ガウン・ガウンバタ・ウタ(村々から立ち上がれ)」を歌って終わった。約3時間におよぶ長い集会だった。バサンタプルで上げられた声は、どこまで伝わるのだろう。

 夜8時のニュースで、国営放送ネパールテレビがポカラでのNSUの学生による暴動の様子を異例とも言える長さで伝えていた。会場の椅子を壊したり、ステージを壊したり、窓を割ったりする“学生”を映した映像が長々と放送された。一方、民間テレビの「カンティプルTV」は、この暴動のあいだ、「治安部隊が介入せずに見守っていた」と、暴動そのものに不可解なところがあることを示唆するコメントをしていた。「カンティプルTV」はこのあと、ネパール会議派のコイララ党首の“奇妙な発言”を伝えていた。コイララ党首がジャーナリストが部屋にいないことを確かめてから、「(共和制要求を掲げている同党の)ガガン・タパとナラハリ・アチャルヤは実は国王派で、2人の逮捕は王室と彼ら自身が仕組んだものだ」と発言したというのだ。コイララ党首は気が変になったのだろうか。本当にこんな発言をしたのだとしたら、ネパール会議派は実に愚かな人間を党首に抱えていることになる。8月末の党総会ではコイララ党首が再度選ばれるという見方が強い。ネパール会議派の“国王”コイララ党首が君臨するかぎり、ネパール会議派内の民主化はきわめて困難だ。

 
   
中央がランジトさん   バサンタプルの広場に集まった人たち   会場に介入しようとした警官隊とそれを阻止しようとする参加者たち



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